• 2024年6月に発売された ASUS の15.6型ノートパソコン
  • AI PCの新規格「Copilot+ PC」に適合する次世代CPUを搭載
  • ARM版Windows なので使用できないソフトも多く一長一短
ASUS Vivobook S 15 S5507QA

こんな人にオススメ!

  • OLED(有機EL)モニターの Copilot+ PC が欲しい人
  • 長く使えるノートパソコンを買いたい人
  • 使い勝手の良いセカンドPCが欲しい人
このレビューは実機の貸出を受けて作成しており、リンクにはアフィリエイトが含まれています。
(提供元:ASUS JAPAN株式会社)

新 ARM版Windows 機の検証

2024年5月末、マイクロソフトが新しいAI搭載PCの規格「Copilot+ PC」を発表した。
これは一定以上のAI処理性能(40TOPS以上のNPU)、16GB以上のメモリ、256GB以上のストレージを持つノートパソコンに与えられる、次世代 AI PC の認定だ。

2024年6月時点で、この条件を満たせるのは「Snapdragon X Elite / Plus」というCPUを搭載した機種のみ。
Intel 社の Lunar Lake、AMD 社の Ryzen AI 300 というCPUも発表されたが、市場投入される日は(6月時点では)明確になっておらず、当面は「Copilot+ PC = Snapdragon X 搭載機」ということになる。

そのひとつとして6月18日に発売されたのが「ASUS Vivobook S 15 S5507QA」だ。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA

ただし、Snapdragon X Elite はARMプロセッサと呼ばれるCPUである。 
ARMプロセッサは、ARM版Windows を使わなければならない。
ARM版Windows は、使えるソフトウェアに制限がある。

市販のソフトウェアや最新のゲームなどで、ARM対応でないものは使用できない。
Office や Photoshop、Zoom など、ビジネスで使用する主要なソフトウェアは対応しているが、基本的には多用途向けではなく、事務や日常使用(SNSや動画視聴など)をターゲットにしたパソコンだと思った方が良いだろう。

Snapdragon X Elite の性能は、さすが現行最新型であるため、かなり高い。
3Kの解像度と120Hzの高速描画を併せ持つ OLED(有機ELディスプレイ)も非常に美しく、15.6型としては軽量の約1.4kgで、バッテリーも70Whと大容量、スピーカーなども高品質。
AIを利用したASUS独自の機能もあり、機能性は非の打ち所がない。

価格はメモリ32GBで249,800円(税込)。
(メモリ16GB機は229,800円で、6月末の発売予定)

以下、本機の特性と性能、外観や対応ソフトなどを検証していきたい。

ARM版Windows と ARMプロセッサ の長所と欠点

まず基礎知識として、ARM版Windows について説明しておきたい。
ご存じの方はこの項目は読み飛ばして欲しい。
逆に、ご存じない方は本機を扱うのに絶対必須な知識なので、よく覚えておいて欲しい。

ARMプロセッサ とはイギリスのARM社の設計(アーキテクチャ)を元にしたCPUで、iPhone や iPad、Mac などに使われている Apple M シリーズもそのひとつだ。

Snapdragon(スナップドラゴン)は主に Android スマホに使われていたが、本機が搭載する Snapdragon X Elite はそれをパソコン用にして、AI(NPU)も搭載したものだ。

Qualcomm Snapdragon X Elite

このため本機はスマホのように、使用後は完全に電源を切るのではなく、スリープにするのを基本としている。
これはモダンスタンバイとも呼ばれ、フタを閉じるだけで自動でスリープし、顔認証と併用すればフタを開けるだけで素早い復帰が可能だ。

また、スリープ中もネットワーク接続が維持され、メッセージを常時受信できる。
Snapdragon はスリープ中のネットワーク維持を低電力で行える設計となっており、さらに本機の無線LANは最新の Wi-Fi 7 に対応。
Snapdragon の開発元であるクアルコム社は元々モバイル通信技術の会社なので、その強みが活かされている。

ARMプロセッサは省電力性能に優れ、長時間のバッテリー駆動が可能なのも長所だ。

ARM版Windows モダンスタンバイ設定

スマホのCPUがベースなので、スマホの使い勝手をPCにも適用しようとしている

Snapdragon X Elite 温度アピール

低発熱で省電力がARMの最大の特徴
だから軽量ノートPCに特に有用

欠点は、先に述べたように対応ソフトの少ない ARM版Windows を使わなければならないこと。
具体的には、以下のような問題がある。

  • 64bitアプリが動作しない
    古いソフト(32bitアプリ)は動くが、新しいソフト(64bitアプリ)はARMに対応していないと動かない。
    そして多くのソフトは、それが32bitなのか64bitなのか、判別が難しい。
  • DirectX12に対応していない
    Windowsのグラフィック機能 DirectX の最新版に対応していない。
    よって多くの新作ゲームや、一部の3Dモデリングソフトが動作しない。
  • OpenGL 3.3 以上は非対応
    DirectX がダメでも、OpenGL という汎用のグラフィック機能に対応していれば動かせる。
    しかしこちらも最新の OpenGL はダメで、動かない CAD(設計ソフト)も多い。

つまり、普段使っているソフトが動かなかったり、正常でなかったりするので、その点の不自由さがある。

ARM版Windows の起動エラー
※こうしたエラーメッセージを頻繁に見ることになるかも……

ただ、マイクロソフトが Copilot+ PC のスタートをARMプロセッサ搭載機にしたため、ARM版Windows の改良に意欲的で、Adobe などのソフトウェアメーカーもARM対応を推進しており、Snapdragon 搭載機の一斉発売によって普及が進んでいる。

この状況なら、ARM版Windows を取り巻く環境は急速に改善されるかもしれない。

また、次の Windows は Copilot+ PC に認定されるクラスのAI性能が必要になると述べられているので、Copilot+ PC を買えば、長く使えることが保証される。
逆に Copilot+ PC に満たないAI性能のパソコンは(現在の発表に沿えば)次以降の Windows は対象外になる。

ともあれ ARM版Windows は、当面は動かないソフトが多いことを承知しておこう。

なお、Snapdragon X Elite は、Apple のMシリーズをライバルとしている。
Apple のパソコンも、市販のソフトやゲームはほとんど動かないが、ARMプロセッサらしい使い勝手の良さがある。

本機は Apple ほどのブランドイメージはないが、一応 Windows なので、Apple のものより使えるソフトは多い。
現時点の ARM版Windows 機は、Apple(Mac)と普通の Windows 機の中間的なパソコンと考えておくのが良いだろう。

外観

デザインとモバイル性能

前置きが長くなったが、ASUS Vivobook S 15 S5507QA のレビューを進めていきたい。
まずは外装の作りから。

本機は装飾は控えめだが、女性もターゲットにしているのか明るいシルバーを基調とした清楚な雰囲気だ。
天板には ASUS VIVOBOOK の刻印があるが、文字は小さい。
ただ、光の反射で鈍く輝き、ロゴもキラキラと光るため、控えめな美しさがある。

天板の梨地加工により触り心地はサラサラで、手の跡や指紋はほとんど付かない。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA 天板

すっきりとしたライトシルバーの天板

ASUS Vivobook S 15 S5507QA ポップとロゴ

宣伝ポップと、光の加減で浮かぶロゴ

キーは角ばった形状で、細字の印字、シルバーの色と相まって、お洒落な印象。

重量は約1.4kgと、15.6型のノートPCとしては軽い。
厚さも閉じた状態で15mm程度と、このサイズのPCとしてはかなり薄型だ。
モバイルPCと言える程ではないが、オフィス用のノートとしてはとても扱いやすい。

また、最近おなじみの米軍規格(MIL-STD 810H)準拠の耐久テストをクリアしており、十分な耐久性を持つ。
実際、持ってみるとがっしりとした硬度を感じる。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA 全景

柔らかな光沢があるので地味な印象はない

ASUS Vivobook S 15 S5507QA キーボードフォント

キーボードのフォントは細字で丸い

本機の大きな特徴は、日本ではまだ市場投入されたばかりの Wi-Fi 7 に対応していること。
クアルコムの最新通信システム FastConnect 7800 を搭載しており、従来(Wi-Fi 6 / 6E)の最大4.8倍高速な、より安定した無線通信を行える。
Bluetooth も最新の 5.4 に対応している。

2024年時点では Wi-Fi 7 対応ルーターは非常に高価で、そうそう利用できるものではないが、価格は徐々に下がっていくだろう。
将来を考えれば Wi-Fi 7 に対応しているのは大きな長所だ。

FastConnect7800 Wi-Fi 7

クアルコムの Wi-Fi 7 の資料。この会社は元々こちらが本業だ

ASUS Vivobook S 15 S5507QA ACアダプタの重さ

ACアダプタはコード込みで約370g
出力を考えると標準的な重さ

バッテリーは70Whと十分な容量があり、Snapdragon X Elite の省電力性能もあって、公称駆動時間は実に約18時間
ASUS 独自の高速充電に対応し、約49分で60%の充電が可能とのこと。

ACアダプタの出力は90Wで、USB-C に接続する形式。
重さは標準的だが、本体と合わせても1.8kg未満で済む。

インターフェイス(接続端子)は、右側に普通のUSB(5Gbps)を2つ、左側に USB-C 2つと、種類ごとに左右に分けられていて、数は十分。
USB-C は高速な USB4 で、映像出力(USB-ALT)と充電(USB-PD)に対応。
本機のCPUがサポートしていないため Thunderbolt4 はないが、それとほぼ変わらない。

HDMI 2.1、micro SDカードリーダーも備えているが、有線LAN 端子はない。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA 左側面

左側面。HDMI、USB-C x2、SDカードリーダー、イヤホン/マイクジャック

ASUS Vivobook S 15 S5507QA 右側面

右側面。普通の USB が2つ
なぜか充電ランプもこちらにある

モニター / カメラ / サウンド等

昨今の ASUS のノートPCは、OLED(有機ELディスプレイ)搭載モデルが人気だ。
圧倒的な美しさのモニターで、欠点もない訳ではないが、ASUS はそれを克服する技術を備えている。
もう OLED のノートPCと言えば、ASUS が定番と言っていい。

本機にはサムスンの有機ELパネルが使用されており、解像度は 2880x1620 の3K高画質。
発色は DCI-P3 基準で100%という超高発色だ(sRGB 換算では133%に相当)。
リフレッシュレートも 120Hz あり、描画も滑らか。

視野角は全方位85度(170度)だが、非常に高画質のため、真横から見ても普通の液晶画面より綺麗に見える。
応答速度は0.2msで残像は一切発生せず、コントラスト比は100万:1と液晶の比ではない。
輝度は最大600nitと非常に高く、晴れた野外でも使用可能な明るさを持つ。

色鮮やかでクッキリ、激しい動きにも強い、別格の性能のモニターだ。
また、色精度を落とすことなくブルーライトを約70%低減できるようになったという。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA OLEDモニター
※超高発色で高精細。ASUSはOLED搭載PCの技術において業界No.1と言える。

前述したように OLED(有機EL)にも短所はあるが、見えないレベルで表示を動かして焼け付きを防止するピクセルシフトや、青みを防いで深い色合いを表現する色調整、輝度を変えてちらつきを防止するフリッカーフリーディミング、独自の消電力機能などで欠点を克服している。

光沢モニターなので写り込みはあるが、非光沢にしてせっかくの高発色を落としてしまうのは本末転倒なので、OLEDは光沢なのが普通だ。

ヒンジは180度、平らになるまで開くことができ、多人数でのミーティングや対面でのプレゼンにも活用しやすい。

ASUS OLED Care

有機ELは焼け付き防止や色味対策が必要
美しいものには手がかかるのです

ASUS Vivobook S 15 S5507QA ヒンジ

ペタンと180度まで展開可能
外枠の狭さにも注目。なんと約3mm

フェイスカメラは約200万画素の高画質で、顔認証用のIRカメラを装備。
スリープからの素早い復帰とセキュリティを両立させるため、ARMプロセッサ搭載機には顔認証は必須だろう。
離れると自動的にスリープする離籍ログオフなども設定できるようになっている。

そしてカメラにはAI(NPU)を利用した多彩な機能(Windows スタジオ エフェクト)が備わっており、背景ぼかしはもちろん、顔を中心にカメラを動かす自動フレーミング、明るさを自動調整するポートレートライト、カンペを読んでいても目が正面に向いているよう補正するテレプロンプターなどを利用できる。

水彩画風やアニメ風に映像を補正するフィルター機能もあり、シワやシミが目立たなくなる。

Windows スタジオ エフェクト

この Windows スタジオ エフェクトは、NPU非搭載のCPUでは利用できない。
NPUを搭載していても、性能が十分でないもの(Core Ultra、Ryzen 7040/8040)だとテレプロンプターやポートレートライト、フィルター機能は使えない。
全機能を利用できるのは今のところ、本機のような Copilot+ PC のみだ。

マイクに関しては、従来のシステムを流用できなかったのか、他の機種では行えたノイズキャンセリングや指向性マイクの設定が見当たらない。
ただ、カタログにはAIノイズキャンセリングが導入されているという案内がある。
しかもこのAIは学習型のようで、使うほどクリアな音質になっていくという。

マイクも含むサウンドの制御は、Snapdragon Sound と呼ばれるクアルコム独自のCPU内蔵システムが使われている。
おなじみ Dolby のイコライザー(音響調整ソフト)も備わっているが、初期設定ではオフになっていた。
また、音響メーカー Harman / Kardon(ハーマンカードン)のスピーカーが搭載されている。

実際に聴いてみた、私的な音の評価は…… ものすごく良い。
特に音響の広がり、音の深みが高性能スピーカーレベルで、初期設定のままでもかなり高音質。
低音も悪くなく、存分に音楽を楽しむことができるだろう。

ただ、Dolby を起動して「ダイナミック」の設定にした方が、低音が増し、より力強くなる。
この辺は好みもあると思うので、自分で調整してみると良いだろう。

Dolby Atmos
※ドルビーの音響設定。MyASUS からも設定できる。無理に変えなくても十分良い音。

キーボード

15.6インチのノートパソコンのためキーボードは広く、横3桁のテンキーも備わっている。
シルバーの角ばったキーと細字のフォントが、お洒落な印象を与えてくれる。

打鍵感は硬さがちょうど良く、とても打ちやすい。
最初はちょっと重めに感じたが、打ち辛さはなく、指に来る衝撃も少ない。
反発は強く、キーストローク(深さ)の割にしっかりした打鍵感があり、板を叩いているような感覚はない。

かなりサクサクと、快適にタイピングできるキーボードだ。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA キーボード

キーボード外観。とても使いやすく、見た目も綺麗な印象だ

ASUS Vivobook S 15 S5507QA テンキー周辺

横3桁のテンキーでも、あるとないでは数値入力を伴う作業の効率はだいぶ違う

配置も変わったところはないが、ファンクションキーは機能優先で、Fnキーと同時押しすることで F5 や F10 の役割になる。
ただ、これは MyASUS という設定ソフトで切り替えられるので、特に問題はない。

Copilot+ PC であるため、Copilot キーがあるのが特徴のひとつだ。
押せばAIアシスタントの Copilot が立ち上がり、命令や質問などを行える。

これは Apple の Siri や、Google の Gemini、Amazon の Alexa などと同じだが、ChatGPT のようにビジネス文書の例文などを作らせることもできる。

マイクをONにすれば iPhone の Siri のように音声で伝えることもでき、音声認識の制度はかなり優れていた。
うまく聞き取ってくれなかったケースはほとんどなく、ちょっと噛んでも理解してくれる。

また、音声で伝えた場合、Copilot も日本語の音声で応えてくれる。いかにも機械音声だが。

Copilot キー

Copilot+ PC の証、Copilot キー
ちなみに本機には顔文字キーもある

Copilot

Copilot さんと会話中。簡単な文書の作成や、類語の検索などに便利だ

ただ、AI PC(NPU搭載CPU)だから反応が早い、という感じはなかった。
と言うか、現時点の Copilot はネットワーク上のサーバーで処理されており、回線が繋がっていないと応答できず、ローカル(PC)側で何かの処理が行われているようには見えない。

Copilot がNPUを活用してローカルで動くようになる(いわゆるエッジAI)には、まだしばらくかかりそうだ。

キーボードにはバックライトも備わっていて、色も好みに変更することができる。
キー単位の色設定はできないが、ゲーミングモデルのように七色に光らせることも可能だ。

また、タッチパッドが多機能で、右端を上下にスライドすることで明るさを調整でき、左端を上下にスライドすれば再生中の音のボリュームを変えられる。
上部スライドで早送り、巻き戻しも可能で、動画視聴時にすごく便利。
他の機種でも導入して欲しい機能
だ。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA タッチパネルのスマートジェスチャー

タッチパッドはかなり大きめで、指の置き直しを減らすことができ、指も良く滑る。
触感は普通だが、ジェスチャ操作も可能で、使い勝手は非常に良い。

パーツ性能

処理性能(CPUとNPU)

ASUS Vivobook S 15 S5507QA は、CPUに「Snapdragon X Elite - X1E-78-100」が搭載されている。
冒頭から述べているように、Qualcomm(クアルコム)が公開したARMプロセッサだ。
正確には、サウンドや通信制御、カメラ制御など、様々な機能をまとめた SoC と呼ばれる製品になる。

Qualcomm Snapdragon X Elite Spec

本機が搭載する X1E-78-100 は、現在発表されている4つの Snapdragon X Elite の中では一番下に位置するもので、使用コアが少ない時にブーストをかける技術が適用されていない。
ただ、そのぶん発熱は抑えられていると思われる。
また、Elite の下に Snapdragon X Plus という下位モデルがあり、それよりは上位となる。

12コアのCPUで、TDP(消費電力と発熱の目安)は未発表。プロセスルールは4nm。
ウリの NPU(AI専用コア)は 45TOPS となっている。

Snapdragon X Elite, CPU-Z ARM

本機には4つの「ファンモード」があり、これによってファンの速度(冷却力と騒音)だけでなく、CPUへの投入電力も変化する。

ARM版Windows のため温度や電力の確認ソフトが動作せず、具体的な変化はわからなかったが、ファンモードはファンだけでなく、パワーも変わることを知っておこう。
このファンモードは付属ソフト MyASUS か、Fn+F キーで簡単に切り替えられる。

MyASUS ファンモード

以下はCPUのベンチマーク(性能測定)ソフト Cinebench 2024 ARM版 の結果だ。

いつも使っている Cinebench R23 は動作はしたが、測定結果がおかしかったので、今回は参考にしていない。
このため、比較対象が限られているのでご了承いただきたい。

Snapdragon X Elite - X1E-78-100, CINEBENCH 2024, ASUS Vivobook S 15 S5507QA, フルスピード

Snapdragon X Elite E78 フルスピード

Snapdragon X Elite - X1E-78-100, CINEBENCH 2024, ASUS Vivobook S 15 S5507QA, スタンダード

Snapdragon X Elite E78 スタンダード

・マルチコア性能(ノート用CPU、ARM込み)

Core i9-13900HX:1485

Snapdragon X Elite X1-E78:1070 (フルスピード)

Snapdragon X Elite X1-E78:1030 (パフォーマンス)

Snapdragon X Elite X1-E78:960 (スタンダード)

Ryzen 9 8945HS:950

Ryzen 7 7840HS:940

Core i7-13620H:890

Apple M2 Pro:780

Core i7-12650H:750

Snapdragon X Elite X1-E78:740 (ウィスパー)

Core Ultra 7 155H (44W):670

Apple M3:650

Apple M2:550

Core i7-1360P:545

Apple M1:500

Core Ultra 7 155U (20W):380

・シングルコア性能(ノート用CPU、ARM込み)

Apple M3:135

Apple M2 Pro:122

Apple M2:120

Core i9-13900HX:118

Apple M1:112

Core i7-13620H:111

Snapdragon X Elite X1-E78-100:108

Core i7-1360P:106

Core Ultra 7 155H (44W):105

Ryzen 9 8945HS:104

Ryzen 7 7840HS:104

Core i7-12650H:102

Core Ultra 7 155U (20W):96

ファンモードがウィスパー(静音)モード以外なら、マルチコア性能は最新の Core や Ryzen のノート用 性能重視型を越える。
シングルコア性能も高いレベルにあり、さすが後発CPUという他ない。

そして驚くべきは、これはARMプロセッサ、つまり省電力性能を重視したCPUであることだ。
さすがにフルスピードモードだと結構なファンの騒音(回転音)があったが、パフォーマンスやスタンダードモードなら常識的な回転音で、CPU温度も70℃以下。
ASUSの優れた冷却システムを考慮しても、そこまで高電力とは思えない。
それでこの性能は素晴らしい。

来たる省電力PC時代を見越して、制限が多くても各メーカーが ARM版Windows のパソコンの開発を続けている理由がよくわかる。

なお、Snapdragon X Elite の開発元である Qualcomm は Apple をライバル視しているため、Apple 機で多用される Geekbench 6 の測定結果と、Apple プロセッサ中心の比較グラフも掲載しておこう。

Snapdragon X Elite X1E-78-100, ASUS Vivobook S 15 S5507QA, Geekbench 6

・マルチコア性能(ノート用CPU、ARM込み)

Apple M3 Max:20000

Apple M3 Pro:15200

Apple M2 Max:14600

Snapdragon X Elite X1-E78:14500

Apple M2 Pro:14300

Core i7-14700HX:13500

Apple M1 Max:12300

Core Ultra 9 185H:12000

Ryzen 9 8945HS:11650

Apple M3:11600

Ryzen 7 8840HS:11150

Apple M2:9700

Apple M1:8300

Ryzen 5 6600H:7400

・シングルコア性能(ノート用CPU、ARM込み)

Apple M3 Max/Pro:3100

Apple M3:3050

Apple M2 Max/Pro:2700

Apple M2:2600

Core i7-14700HX:2500

Snapdragon X Elite X1-E78-100:2450

Apple M1 Max/Pro:2370

Apple M1:2350

Ryzen 9 8945HS:2350

Ryzen 7 7840HS:2350

Core Ultra 9 185H:2250

Ryzen 5 6600H:1800

Max や Pro といった、かなり高額な Apple のCPUと競える能力を持っており、コストパフォーマンスの良さがわかる。

クアルコムは発表会で「Apple M2 より高性能! マルチコアなら Apple M3 にも負けない!」とアピールしていたが、それを裏付ける測定結果だ。

なお、「Snapdragon X Elite 搭載PCはすごく低性能で驚き!」「iPhone 12(M1の2世代前)より低い!」といった扇動的な記事が巷で話題になっていたが、当ページの検証結果を見てもわかるように、そんなことはない。

本機(ASUS Vivobook S 15 S5507QA)もすごく低性能なベンチマークスコアの画像が出回っていたりするが、明らかに数値がおかしい。
そうした記事に惑わされないようにして欲しい。


さて、Copilot+ PC のCPUを語るなら、NPU(AI専用コア)は欠かせない。

Snapdragon X Elite のNPUは45TOPSの処理能力を持ち、現状(2024年6月時点で)唯一の Copilot+ PC の要件(40TOPS以上)を満たすCPUとなっている。
ちなみに、Intel の Core Ultra は10TOPS、AMD の Ryzen(Zen4)は16TOPSである。

今後、同じ 45TOPS のNPUを持つ Intel の Lunar Lake、50TOPS のNPUを持つ AMD の Ryzen AI 300(Zen5)の発売が控えているが、当面は Snapdragon の独占だ。

とは言え、現時点でNPUで出来ることは多くない。
先に述べたカメラの補助機能以外では、Image Creator というツールや、ペイントソフトの Cocreator 機能で、画像生成に使われるぐらいだ。
ただ、Cocreator はユーザーが書いたイラストを元に画像を作成できるのがユニークだ。

Cocreator
※私のような絵心のない人間のラクガキでも、それなりの絵を出力してくれる。何を描いたかの説明も添付し、それを元に作画を行う。ただしネット接続と Microsoft アカウントへのサインインが必要。

実は Copilot+ の目玉機能として Recall(リコール)という機能が予定されていたのだが……
画面のスクリーンショットを自動で撮影し、AIで分析して保存するというもので、検索に役立つとのことだったが、プライバシーの侵害が懸念されて導入延期となってしまった。

正直、やっていることが情報を盗み取るスパイウェアと同じで、十分なセキュリティがあるとのことだが、一般化するのは考えづらい。

本機には ASUS 独自の StoryCube というソフトウェアがあって、ユーザーが撮影した写真をNPUで分析・分類し、さらに自動でムービーを作ってくれる。
今のところ、有効に使えるのはこれぐらいだろうか。

Image Creator in Photos

もうおなじみ、AIによる画像生成
もはや論理で進歩は止められないか

ASUS StoryCube

ASUS独自のAIアルバム StoryCube
分類やスライドショーの作成を自動化

だが、Office や Photoshop へのNPUを利用した機能の追加が進められており、次期 Windows も40TOPS以上のNPUを持つCPUが必須とされている。
NPUを活用する機能は、これからますます増えていくだろう。

グラフィックとゲームの動作検証

本機のグラフィック機能(GPU)は、Snapdragon X Elite - X1E-78-100 に備わっている、CPU内蔵のものが使われる。

クアルコムの発表会では、他の一般的なCPU内蔵グラフィック機能の2倍の性能を持つとアピールされていた。

だが、実際のところはどうなのか?
以下は ARM プロセッサにも対応している測定ソフト 3DMark:Wild Life Extreme の結果と、他のCPUとの比較グラフだ。
(いつも使っている TimeSpy も動いたが、結果がいまいちあやしかった)

Snapdragon X Elite - X1E-78-100, 3DMark Wild Life Extreme

・3D Mark: Wild Life Extreme(ARM中心)

GeForce RTX 3050 4GB 40W:54fps

Apple M3:50fps

Apple M2 (10core GPU):40fps

Snapdragon X Elite X1-E78-100:39fps (本機)

Core Ultra 7 155H:34fps

Apple M2 (8core GPU):33fps

Apple M1:30fps

Ryzen 7840U:27fps

Core i7-1360P:24fps

Core i7-1260P:23fps

GeForce 以外はCPU内蔵機能での比較。
Apple M2 と同等で、Core Ultra 7 よりも上。
最新CPUの内蔵グラフィック機能としては妥当な性能と言えるが、ビデオカードには及ばない。

だが、それより問題なのは、ARM版Windows であるため動かないソフトウェアが多いことだ。
特に最新のゲームに利用されている DirectX12 に対応していないのが厳しい。

では実際、試してみるとどうなのか? 意外と動いたりすることはないのか?
以下は人気のゲームを起動させてみた結果の一覧だ。
※動画は検証機で録画したものですが、再生速度は30fpsです。

必要環境 DirectX12

モンスターハンターライズは DirectX12 が必要なので起動しない。
エラーさえ出ず、音もなく終了する。
Ghost of Tsushima も同じ症状となる。

Apex Legends ARMエラー

どちらも DirectX11 のゲームなのだが、Apex は起動時にエラーが出て、ARM64に対応していないと表示される。
Valorant はプレイに必要なチート対策ソフトが機能しないため、起動できない。

アーマードコア6 ARMエラー

これらはすべて DirectX12 のゲームなので、起動時にエラーメッセージが表示される。
鉄拳8 はしばらくフリーズした後、エラーが出てくる。
パルワールドはアンリアルエンジンのクラッシュ報告が出てしまう。

※中画質、解像度1920x1080

7以降の龍が如くとジャッジアイズ(キムタクが如く)は DirectX12 なので対象外。
最新の龍が如く8もエラーが出て起動しなかった。
0、極1、極2、6以前の龍が如くは DirectX11 であり、龍が如く0 は動くのを確認。
解像度1920x1080 なら中画質でも 30fps 以上で動作する。

※画質LOWEST、解像度1920x1080

公式サイトには DirectX12 と表記されているが、実は DirectX11 もサポートしており、動作が可能。
画質は LOW でも厳しいが、最低画質の LOWEST にすれば解像度 1920x1080 でもほぼ60fpsを維持できる。
LOWEST でもそんなに見劣りはしない。ベンチマークも製品版も動作する。

このゲームも DirectX11 と DirectX12 を両方サポートしており、問題なく動く。
無数の敵や武器が飛び交う状況になっても100fps以上を維持できる。

Civilization VI

このゲームは起動時に DirectX11 と DirectX12 を選択でき、DirectX11なら動作する。
解像度が2880x1620になり、文字がすごく小さくなってしまうが、グラフィック設定でボーダーレスウィンドウにして、UIアップスケールを200%にすればまともな表示になる。
動作速度はほぼ問題ない。

信長の野望 新生

DirectX11 のゲームで、問題なく動作する。
ただし解像度2880x1620では20fps程度となるため厳しい。
1920x1080なら画質優先でもほぼ30fpsで動作する。

DirectX11 のソフトで、問題なく動作する。
動作速度も120fpsを維持できる。

FF14/15 ベンチマーク

どちらも DirectX11 のソフトであるため動作する模様。
ベンチマークを動かしてみた結果は、FF14 はノート用 標準画質で「やや快適」。
FF15 は軽量画質で「普通」。内蔵GPUでこの結果は素晴らしい。

スターデューバレー/テラリア

スターデューバレーは DirectX10、テラリアは DirectX9。
この世代のゲームは問題なく動作する。表示も2Dなので軽快に動く。
マインクラフトは ARM に正式対応している。

基本的には DirectX12 はダメで、DirectX11 も高度な3Dグラフィックが表示されるものは無理な場合が多いようだ。
とは言え、DirectX12 表記のストリートファイター6が動いたりするので、実際のところ、やってみなければわからない、というのが本音である。

ただ、動くものは予想以上に快適に動いていた。
Core Ultra の内蔵グラフィック機能(Intel Arc)は、基礎能力はあるのに速度に反映され辛かったりするが、Snapdragon の Adreno GPU は、PCゲームではメジャーでないにも関わらず、能力を十分発揮していて表示の不具合も見られない。

この辺は、Android スマホなどで長年つちかった経験だろうか。

もちろんゲーム以外のソフトウェアも対応に注意しなければならない。
例えば、宛名書き&住所録ソフトは(2024年夏時点で)筆王と筆まめは動かない。
宛名職人なら、同じARMプロセッサ機である Apple の Mac を対象としているためか、ARM版の Windows にも対応しているが、印刷するには Mopria という技術に対応したプリンターが必要なようだ。

冒頭でも述べたが、Office、Zoom、Photoshop などはARM版がすでに公開されている。
また、Adobe は作画ソフトの Illustrator、動画編集の Premiere Pro のARM対応を進めると告知している。

だが、今の時点では、あまりあれこれやろうとしない方が良いだろう。
動くなら能力自体は優秀なので、ARM版Windows の改良と、市販ソフトの対応に期待したいところだ。

ストレージ(記録装置)とメモリ

ストレージ(データ記録装置)には容量1TBの NVMe SSD が使用されている。
もちろん第4世代(Gen4)の製品で、1TB ならノートPCとしては大容量だ。

使われていたのは Micron 2400 の企業納入用で、省電力性能に優れており、ASUSのノートPCにはよく使われている。

実機でのベンチマーク(性能測定)の結果は以下の通り。

Micron 2400, ASUS Vivobook S 15 S5507QA, Crystal Disk Mark, default

標準設定での測定

Micron 2400, ASUS Vivobook S 15 S5507QA, Crystal Disk Mark, NVMe SSD Mode

NVMe SSD 設定の測定

読み込みは約5080MB/s、書き込みは約3630MB/s。
公称の読み込み速度は4500MB/sだが、ASUSのノートPCはいつも読み込みが公称値より500MB/sほど速い。
マザーボードの作りが良いのだろうか?

ランダムアクセスも優秀で、NVMe SSD用の測定(同時処理あり)で読み込み速度が1000MB/sを超えている。
Gen4 の NVMe SSD として、遜色のない性能だ。

メモリは LPDDR5X(LPDDR5X-8448)が搭載されている。
容量は 16GB と 32GB のものがあり、基板に直付けなので交換はできない。
性能は最新のLPDDR5、しかも 8448 は上位の速度であり、文句なしの性能である。

総評

ARM版Windows は使えるソフトウェアに制約があるので、私はあまり評価していなかったし、実際に普及しなかった。
だから Snapdragon 搭載の Copilot+ PC も、やや懐疑的だったのだが……

やはりと言うか、さすが後発と言うか、Snapdragon X Elite の性能は予想以上だった。
以前見た Snapdragon の前世代(Snapdragon 8cx)のノートPCは Core や Ryzen と比較してメリットが乏しく、お勧めとは言えなかったのだが、今回の製品の性能は明確に Core Ultra や Ryzen(Zen4)を越えている。

本機の場合、現行トップクラスの処理性能と省電力性能に加え、画面もOLED(有機EL)で、テンキーのある15.6型ノートで1.4kgと、オフィスノートとしては贅沢と言えるほどの機能性をあわせ持つ。
クアルコムの Wi-Fi 7 である点も見逃せず、 能力は本当に素晴らしい。

ただ、再三言うように、ARM版Windows は動かないソフトが多いのがネックで、今のところは最新性能とのトレードオフとなる。
Intel や AMD が今後発売する Lunar Lake や Ryzen AI 300 を待つか、ARM版Windows の今後の発展を期待して Snapdragon X Elite を選ぶか……
いまノートPCが必要な人にとって、悩ましい選択だ。

ともあれ OLED の本機は、Copilot+ PC の中でも上位の製品である。
将来のため Copilot+ PC を選ぶなら、有力な選択肢であるのは間違いないだろう。

ASUS Vivobook S 15 S5507QA

ASUS Vivobook S 15 S5507QAicon

(2024年6月モデル、メモリ32GB)

形式:15.6インチ ノートパソコン
CPU:Snapdragon X Elite X1E-78-100
(ARMプロセッサ、NPU 45TOPS、最大 計75TOPS)
グラフィックス:Qualcomm Adreno GPU(CPU内蔵)
メモリ:16GB / 32GB(LPDDR5X-8448)
ストレージ:1TB NVMe SSD(Gen4)
モニター:OLED(有機EL)、解像度2880x1620、DCI-P3 100%(sRGB比 約133%)、リフレッシュレート120Hz
カメラ:200万画素、顔認証
サウンド:Harman / Kardon のスピーカー、Dolby Atmos のイコライザー、Snapdragon Sound
通信:Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
モバイル性能:約1.42kg、バッテリー70Wh、公称18時間
その他:ARM版Windows、OLED対応機能、高速充電、4つの動作モード、USB4 x2、AIオンライン会議機能、180度ヒンジ、高耐久試験
定価:32GB 249,800円、16GB 229,800円(税込)

※詳細は ASUS 公式ストア もご覧下さい。
※メモリ16GBモデルは6月末の発売予定です。
※ARM版Windows のため動かないソフトがあります。
※仕様・価格は時期により変更の可能性があります。